我が家の小学校受験

幼稚園時代、数々の珍事件を起こしてくれた息子。最大の事件は小学校受験でした。


我が家は主人が国公立志向ということもあり私立の小学校受験はあまり考えていなかったのですが、何でも自分で決めたがる息子のこと。何の説明もなしに公立小学校に進ませていいのか⁉︎とふと思い、一応公立と私立の違い、私立小学校に行くには受験をしなければならないことなどを説明しました。すると「1番難しい学校に行く!」と言い出す息子。プライドと口だけは一人前。

息子が行きたいと言った小学校は難関で有名な小学校。通常、お受験は年中の秋にスタートと言われてますが、その小学校を目指す子たちは年少からお受験モード。早くから幼児教室+くもん+体操教室など、その小学校を受験するための特別クラスのあるお教室に通っているのがスタンダード。息子が決意をしたのは年長の3月。時すでに遅し。。。

と思いつつ、言い出したら聞かない息子のためにダメもとで春期講習に申し込むことに。幼児教室の先生も「こんな時期にどうしたの⁉︎」と言わんばかり。

はじめての講習の日。息子のクラスは年中までにほぼ授業は終わり年長からは実践演習に入っている時期でした。試験本番と同じようなテストを2時間+復習1時間。授業を全く受けていない息子はできるわけもありません。花丸をいっぱいもらって喜んでいるまわりの子たちとはあまりにも温度差がありました。先生も息子のことは全く相手にしていない様子。後ろで見ていた私もこれは無理だなと確信。息子もこんな雰囲気は嫌だとすぐに諦めるだろうと思っていました。ところがこの雰囲気が負けず嫌いの息子に火をつけたのか、帰り道に「どうする⁉︎」と聞くと、ただ一言、力強く「やる!!」と。

その日から私と息子の二人三脚の闘いは始まりました。
週末は下の子を実家に預かってもらい、金曜、土曜、日曜はひたすらプリントに向き合う毎日。幼稚園児にこんな問題解けるの⁉︎って思うくらい難しい問題が並びます。頭の中で複雑な図形を回転させたり、展開させたり、正直私の苦手な分野の問題ばかり。
クラスではできて当たり前のところを私があの手この手で教えなければなりません。
何度やっても間違える問題もあり、こちらもイライライライラ。
ただ「お話の記憶」だけは対策をしなくても最初からほぼ満点。とっても長くてややこしいお話でもちゃんと答えられていました。

おまけにその小学校は親の作文も試験科目にあるため、私も毎週作文の宿題をやらなければなりません。毎回教養を問われるような難しいお題が与えられ、自分の育児経験を交えながら意見を述べ、最後はその小学校の教育方針に異論はないという趣旨で作文をまとめるというとても頭を悩ませるものでした。
書くことは嫌いではないのですが、作文を添削され、受験のためにはこういう内容で書かなければならないと言われると毎回あまり筆がすすみません。

そうこうしている間に夏になり、息子もだいぶ色々なパターンの問題に対応できるようになり、なんとか勝負できるのでは⁉︎というところまでこぎつけることができました。
一度だけ教室内の模試で2位になったことがありました。息子と涙して喜びました。

本番が近づき、まずは親の面接日。面接は両親のみで息子はお留守番。色々な質問に対してどう答えるか主人と練習をしていたおかげでスムーズに終わりました。先生方の印象も良い感じでなんとなく大丈夫だという気がしていました。

そしていよいよ息子の受験当日。
朝から緊張しているのは私のほう。
息子はいつも通りの様子。
じゅうぶん頑張ってきたのでいつも通り力を出せれば大丈夫!と励まして校門をくぐりました。幼児教室の先生方も校門前に応援に来てくれていました。
受付をして試験会場に向かい息子が試験を受ける教室の前まで来た時です。
急に息子の手に力が入り始めました。
「大丈夫、大丈夫」と声をかける私。
入口で1人ずつゼッケンをもらって入るのですが息子の足が進みません。
最後まで入口で待っていましたが、もう時間になったので「頑張っておいで」と軽く背中を押して行かせようとしたその時でした。
「ギャー!」と大声で泣き叫ぶ息子。
「ママも一緒じゃないと無理!」と。
緊張感漂う静かな廊下に息子の泣き叫ぶ声が響き渡りました。

先生が慌てて別室に誘導してくださり「落ち着くまでママと一緒にいていいよ」と優しく対応してくださいました。
先生が息子は別室で試験を受けてもいいと言ってくださったので、息子が落ち着いたタイミングで私は作文の部屋に移動しようしたのですが、私が離れるとまた泣き出すしまつ。学校側は色々と配慮をしてくださったのですがもうこれ以上はダメだなと思いました。
その瞬間、私の頭の中には息子と一緒に走り続けたこの半年間の映像が駆け巡りました。このまま辞退するには正直私のほうが悔しくて涙が止まりません。今まで目標に向かって一緒に頑張ってきたことは何だったんだろう。息子のひと言から始まったお受験。誰よりも意志を強く持って頑張っていた姿を見てきただけに、このまま泣いて辞退してしまったら息子はこの先後悔しないだろうか。色んな思いが頭を駆け巡りました。
そして教室を去る前に、息子の今後のためにも本当の気持ちを最終確認してからと思い「まだ頑張りたいなら右手、もう頑張れないなら左手を握って」と私の両手を差し出しました。
息子はしばらく考えた後、左手をしっかりと握りました。

そしてその時はじめて、息子は思っていた以上の重圧を感じていたんだなと気付きました。知らず知らずの間に無理をしていたんだなと。行きたいと思っている学校に行かせてあげたい!その思いだけで突っ走ってきた半年間でしたが、息子の重圧に気づいてあげられなかったことが悔やまれました。そして息子が「もう頑張れない」と選んだことで私もこの決断には悔いはないと確信。先生に「ありがとうございました」と深々とお礼を言って退室しました。
校門のところで校長先生、副校長先生はじめ5人ほどの先生方に見送って頂きました。
校長先生からは「中学校で待ってるよ」と温かい言葉をかけて頂きました。
素晴らしい学校だなとつくづく噛み締めながら涙ながらに校門をくぐった直後、息子の口から出た言葉は「せっかくやし〇〇〇で食べて帰ろう」と。

プッツンと私の中で何かが切れた音がしたのでした。。。

こうして我が家のお受験は幕を閉じました。

私のほうはしばらくは立ち直れずいましたが今ではこれも笑い話。
我が息子よ。ママと全力で挑んだこの半年間のことは決して忘れないでおくれ。
そして今後の受験は自分で頑張るのだよ。